忘れられない味


ニチレイ広報誌 OriOri 夏号に

先生の『忘れられない味』が掲載されています。

「白くつるっとしたおとうふ」

食に対する好みには、僕の感覚や歓声が関わっているように思います。

好きな食べ物は子どもの頃から変わらず、おとうふです。

白くて柔らかくて、さらっとした肌ざわりで、つるっとした舌ざわり。

シンプルに、湯豆腐や冷奴などで食べるのが好きです。

ほかに好きな食べ物といえば、卵、白いご飯、お芋、かまぼこなど。

おそばも好物。

つるっ、すべっ、さらっ、さくっ。

そんな見た目や食感のものに惹かれます。

こうしてみると、なんだか白いものが多いですね。


僕の影絵の原点は、シルエットと光の階調だけの白黒の世界です。

戦後まもなくインドネシアの影絵劇に接し

白と黒の対比の美しさ、潔さに夢中になりました。

その後、光と影を追求する中で色彩の美しさに魅せられ、

カラー作品へと移行していくわけですが、

白黒の影絵に惹かれたのも、真っ白なおとうふを好むのも、

何か通じるところがあるのかもしれません。


一方で、苦手な食べ物はナスです。

煮たり焼いたりすると、仲がグニャっとするでしょう。

割ると種がたくさんあり、ビチャッ、グニャッとするトマトやザクロも好みません。

子どものころからそういう見た目や食感が嫌でした。

ナス嫌いには他にも理由があります。

僕は東京の生まれですが、19歳のとき戦時中の勤労動員に駆り出され、

静岡の掛川で何か月も暗渠排水(あんきょはいすい)のような土木工事をしました。

僕が泊めてもらった農家では朝も昼も夜も食卓にナスが出てきました。

嫌いとは言えないし、お腹もすくので、

しかたなく飲み込むようにして食べていたら

気持ち悪くなって、しまいにはお腹をこわしてしまいました。

その体験が強烈で、その後いつまでも頭にちらつき、

ナスは食べられなくなりました。


それが、80歳を過ぎてニューヨークで個展を開いたとき、

大使館に招かれておいしく食べた料理にナスがつかれていたと後で知ってびっくり。

「えー?あれがナスだったんだ。料理のしかたによって変わるものだな」と感心し、

おかげでナスへの抵抗が少しなくなりました。

料理のしかたがいくつもあるように、僕も油絵や人形劇、影絵劇など、

ひとつの形にとらわれずに創作を続けてきました。

そのすべてが僕の完成を磨く栄養となり、

今の影絵があるのだと思っています。(談)            

藤城清治の世界

こびとはぼくの分身だ。 ぼくはこびとを通して夢を語る。

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